『やわらかい生活』として映画化された小説『イッツ・オンリー・トーク』でデビューした作家の絲山秋子(いとやま あきこ)さん。
今回は、絲山さんのあまり知られていない経歴を辿っていきましょう。
早稲田大学での学生生活、結婚の詳細、映画化作品のシナリオを巡る訴訟と裁判の行方に迫ります。
併せて、双極性障害の発症から芥川賞受賞までの道のりを確認します。
絲山秋子のプロフィール
本名:西平秋子
生年月日:1966年11月22日
身長:174cm
出身地:東京都世田谷区
最終学歴:早稲田大学政治経済学部経済学科
絲山秋子は早稲田大学政治経済学部を卒業
絲山さんは、黒田夏子さんや朝井リョウさんなど、多くの有名作家を輩出した早稲田大学の出身です。
ただし文学部で小説家修業をしていたわけではありませんでした。
政治経済学部経済学科で社会科学系の勉強をしていたため、文学はほとんど読んでいなかったそうです。
ゼミでは農業経済を専攻していたため、どちらかと言えば理系向けの実務書を読んでいたのでしょう。
ただ大学時代にまったく小説を読まなかったわけではありません。
大きく影響を受けた作家が、『夜の果ての旅』で知られるフランスのルイ=フェルディナン・セリーヌです。
今も好きな作家で、セリーヌ全集を少しずつ買いそろえてきたといいます。
どんな派閥にも属さない、独自の境地に至ったセリーヌの文体を意識しながら、短編を書いたこともありました。
パワフルながら暗く、また難解な作風に惹かれるとのこと。
最初から諦めているためか、「セリーヌのような作家になりたい」とは考えたことがないといいます。
ただし経済を学んでいた絲山さんが文学の道に導かれたのは、セリーヌの存在があったからこそでしょうね。
絲山秋子は結婚せず高崎市で1人暮らし
絲山さんが結婚しているのか調査しました。
結論から言うと、絲山さんは独身です。
10年前に書いていたブログによると、結婚をした夢を見たことはあるそうですが、実際には結婚歴がありません。
2009年に群馬県高崎市に自宅を新築し、雑種犬を2匹飼って生活を始めました。
高崎経済大学の非常勤講師や高崎経済大学の理事を務めたり、ラジオ高崎「Air Place」に出演したりと活躍しています。
今はいずれの仕事からも身を引いて、作家業に専念しているようですが、今も高崎市の自宅で生活している様子です。
2014年に群馬県が大雪に見舞われたことをきっかけにつづった『薄情』には、群馬県各地の自治体が登場します。
同作で谷崎潤一郎賞を受賞し、見事に群馬県を代表する作家となりました。
東京よりも自然の大きさを感じられることが多く、小説のインスピレーションを得る機会が多い土地なのかもしれませんね。
映画脚本の出版を巡る訴訟からの裁判で勝訴
絲山さんを巡るエピソードで有名なのが、映画脚本の出版化を巡る訴訟と裁判でしょう。
映画『やわらかい生活』は、デビュー作『イッツ・オンリー・トーク』が原作。
ネットで、映画「やわらかい生活」を観ました。https://t.co/xx2yZGVImE#やわらかい生活 #絲山秋子 #廣木隆一 #寺島しのぶ pic.twitter.com/GL0orWMOVt
— 織野 (@orino_k) May 11, 2020
絲山さんは映画のストーリーが原作と大きく異なるため、「原作改変」と感じたそうです。
しかしトラブルを避けるため、上映を了承しました。
その後映画制作者側が、映画脚本の出版を希望します。
脚本は原作者の意図に構わず改変されたものですから、絲山さんは出版を拒否しました。
すると脚本家の荒井晴彦さんと「社団法人シナリオ作家協会」が、絲山さんを相手取って、東京地裁に提訴。
出版妨害禁止の違反ということで、損害賠償などを求めたのです。
裁判の結果、絲山さんが完全勝訴したため、映画脚本は出版されませんでした。
訴訟と裁判の結果に関しては、さまざまな意見があります。
ただ多くの人が絲山さんを擁護している印象です。
①絲山秋子さんの『イッツオンリートーク』が広木隆一監督、荒井晴彦脚本で『やわらかい生活』という映画になった。3人とも好きな作家だったので観ていたがまさか裁判沙汰になるとは。書籍『原作と同じじゃなきゃだめですか』に詳細が載っている。こんなシナリオをシナリオ年鑑に載せるなという
— 八十嶋康夫 (@yasuoyasojima) August 11, 2013
③改めて #絲山秋子 さんの原作を読み直し、映画もみた。裁判資料も読んだ。今回は、脚本の収録を拒否した #絲山秋子 さんならびに文藝春秋の主張に私は寄りたい。ただし判決にあるような『脚本が原作の二次著作物』と断じること(28条)には疑問が残る。にも関わらず、被告側に寄ったのは理由がある(続)
— next position (@JCimpact1) May 4, 2021
脚本の出版となると、著作権を持つ絲山さんの意思を尊重する必要があります。
特に原作者が映画に不満を持っていた場合はなおさら、脚本を強引に出版することで、原作のテーマが無効化されかねません。
原作、二次創作に限らず、すべてのクリエイターが肝に銘じておくべき事案ですね。
双極性障害の治療中に小説の執筆を開始
絲山さんは早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業し、住宅設備機器メーカーに就職しました。
営業職として働く中で、双極性障害(躁鬱病)を発症してしまいます。
感情が高ぶっている躁状態と、落ち込んで何も手付かずになる鬱状態をくり返す精神疾患です。
絲山さんは休職後、入院や自宅療養を経て復帰し、今では服薬する必要もないそうです。
しかし闘病中はかなりつらい生活を送っていたはず。
1999年の入院中に小説を書き始めたのは、執筆によって一時的にでも症状から解放されたかったためかもしれません。
2019年には精神疾患についてつづった『絲的ココロエ「気の持ちよう」では治せない』を出版。
絲山秋子氏の著作「絲的ココロエ」を読んでる。いくつかの作品を読むとクールな雰囲気と「おかしみ」というか「一人ボケ突っ込み」感を感じるのだが、その二つを全開に感じながら双極性障害(躁鬱病)とそれだけでなく人生との付き合いを多種多用な観点から書き綴られてる。 pic.twitter.com/XKKarnaiAk
— 山の彼方の空@マスクと手洗いしっかり (@yamano7kanata) May 15, 2020
同じ病気で苦しむ人に寄り添った文章で、多くの人を勇気づけました。
絲山秋子は闘病、退職を経て芥川賞作家に
絲山さんは1998年に双極性障害を患い、療養を経て2001年に住宅設備機器メーカーを退職しました。
同年にホームページを立ち上げ、文章をつづる日々を送ったようです。
2003年に『イッツ・オンリー・トーク』で文学界新人賞を受賞し、デビューを果たします。
芥川賞を受賞したのはデビューから3年後のことでした。
受賞作は、仕事を通じて出会った男女のきずなを描いた『沖で待つ』。
働く人に寄り添った切ない作品で、多くの読者の胸を打ちました。
絲山秋子さんの『沖で待つ』よかった。同期との男女の友情を描いてる。絲山さん自身が早稲田卒でメーカー営業してた人だからすごくリアル。縁もゆかりもない地方に配属され、一緒に奮闘した同期が特別な存在になるのってよくわかる。恋愛関係ではなく、地元の友達とも違う。
— ないな (@Naina_deewani) November 19, 2020
会社での勤務経験がある絲山さんだからこそ、社会人の心の琴線に触れる作品をつづれるのでしょう。
闘病を乗り越えた経験も活かして、今後もたくさんの希望をもたらす作品を発表して欲しいですね。
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