明治の文豪として知られる尾崎紅葉(おざき こうよう)。
熱海を舞台とした名作『金色夜叉』は、銅像にもなっており有名です。
明治20年代には作風が違う幸田露伴と共に、2大作家が活躍する一時期を「紅露時代」と称されるようになります。
現代では当たり前の、「である調」の文体を小説で初めて試みたことでも知られていますね。
今回は紅葉について、弟子・泉鏡花のエピソード、中原中也と関係があるという情報、幸田露伴との関係、死因と熱海との縁について見ていきましょう。
尾崎紅葉のプロフィール
本名:尾崎徳太郎
生年月日:1868年1月10日(慶応3年12月16日)
身長:不明
出身地:江戸芝中門前町(現在の東京都港区芝大門)
最終学歴:東京帝国大学国文科中退(現在の東京大学)
尾崎紅葉と泉鏡花の師弟関係
泉鏡花は尾崎紅葉を生涯、師匠として慕い、その熱心さは崇拝に近かったと言われています。
本名は鏡太郎、象眼細工職人の息子として生まれ、10歳の時に母と死別しています。
文学を志したのは18歳の時。
母の死を乗り越えるために読書へ没頭し、いつしか作家を夢見て、紅葉に弟子入りを志願するのです。
牛込にある紅葉の自宅へやってきた鏡花は、江戸っ子で優しい紅葉から弟子にしてもらう許可を得ました。
このとき紅葉は、「夜具はあるまいな」と訊ねたそうです。
お金も荷物もない貧乏文学青年に対して、何も持っていないからと肩身の狭い思いをさせないようにという気遣いでした。
以来、生涯師匠を敬愛し、執筆に明け暮れた鏡花。
紅葉の死後、葬儀では門弟代表として弔辞を読み、自身も死去するまで紅葉の遺影と全集を床の間に飾っていたそうです。
見事な信頼で結ばれた師弟関係ですね。
尾崎紅葉と中原中也に関係はあるか?
紅葉について、詩人の中原中也と関係があるという情報がありました。
この2人も師弟関係だったのかと考えましたが、それはあり得ません。
中也が生まれたのは紅葉の死から3年後の1907年ですから、交流はなかったはずです。
なぜこのような情報があるのか調べたところ、人気アニメ『文豪ストレイドッグス』で2人の名前を付けられたキャラクターが上司と部下の関係にあるためのようです。
作品では尾崎紅葉という女性キャラクターが上司、中原中也という男性キャラクターが部下で、中也が紅葉を「姐さん」と呼んで慕っているという設定。
マフィア組織に属するキャラクター名に文豪の名前をそのまま使用しており、原作漫画やアニメを知らない人は戸惑うかもしれません。
しかし女性キャラクターである紅葉はとても気風の良い性格に描かれていて、男女ともに人気を博していることから、文豪である紅葉の江戸前な人柄を踏襲していることがわかりました。
文ストの尾崎紅葉様は本当にお美しいと思います。姐さんですよね。本当に好きですお仕えしたい。
— 本月帝 (@cgElJCIIoKXSpnW) October 31, 2019
文学に関心がない人でも楽しめる内容のようで、作品の人気は今後も高まっていくでしょう。
尾崎紅葉と幸田露伴の関係
冒頭で述べたように、紅葉と露伴の頭文字をとった「紅露時代」と呼ばれる一時代がありました。
写実主義の紅葉に対して、露伴は理想主義と呼ばれていましたので、両派の読者層の人気を2分していたことがわかります。
写実主義はリアルで詳細な描写、巧みな構成などの特徴があります。
紅葉の『金色夜叉』では、結婚を約束していた女に裏切られた男が復讐のため高利貸しになるという、救いのない現実的ストーリーが展開されるのです。
一方、理想主義は写実に比べて予想外の展開や現実にはあり得そうにない出来事などを通し、理想を追い求める人間の心を描いています。
つまり理想主義の露伴の作品は、今で言うエンタメ風だったのでしょう。
『五重塔』では愚鈍な男が理想を追い求める姿と、五重塔が嵐で揺れ動きながらも倒れない姿が描かれ、写実主義とは一線を画した作風だとわかります。
紅葉と露伴は、両派の代表にふさわしい、巧みな小説で文壇にその名を知らしめたのでしょう。
尾崎紅葉の死因は?
紅葉は生まれつき病弱でしたが、『金色夜叉』の読売新聞での連載が長期化し体調を崩します。
1899年には胃がんと診断され、同年10月に35歳の若さで亡くなりました。
臨終の際は泉鏡花ら門下生に、「長生きするように」と伝え、「俺も7度生まれ変わり、文章に尽くす」という言葉を遺しました。
まさに、小説に人生をささげた生涯だったのです。
尾崎紅葉の熱海との縁
熱海は紅葉にとって、第2の故郷と言っても良い土地でした。
志賀直哉や山本有三ら多くの文豪に愛された土地ですが、やはりこの土地を有名にしたのは『金色夜叉』でしょう。
紅葉は学生時代に初めて熱海を訪れ、以来作品に描くほど愛し続けました。
例年、熱海では尾崎紅葉祭が行われるなど、若者にもその業績を知ってもらうための活動が盛んです。
尾崎紅葉祭
尾崎紅葉の『金色夜叉』の中で、1月17日、熱海の海岸で主人公の貫一が恋人のお宮と別れる記述があることから。 pic.twitter.com/FD6OSSq80Q
— 久延毘古⛩陶 皇紀2680年令和弐年神無月神在月 (@amtr1117) January 16, 2019
先述した『文豪ストレイドッグス』などの影響で、その名が忘れられることはないでしょう。
同時に、弟子思いの江戸っ子だった素晴らしい人柄と、若くして亡くなった無念にも多くの人が思いをはせられれば理想的ですね。
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