実体験を下敷きに、いじめや非正規雇用について詠った歌人・萩原慎一郎(はぎはら しんいちろう)さん。
若くして頭角を現しましたが、32歳で亡くなった死因は何だったのでしょうか。
また武蔵中学校でのいじめ、代表作『滑走路』、恋について、さらに有吉弘行さんとの関係を見ていきます。
萩原慎一郎のプロフィール
本名:萩原慎一郎
生年月日:1984年9月16日
死没:2017年6月8日
身長:不明
出身地:東京都小平市
最終学歴:早稲田大学通信制
萩原慎一郎の死因
まず萩原さんの死因を見ていきます。
2017年、初めての歌集の出版が決まり、5月に原稿を提出していたそうです。
しかし6月8日、32歳で自ら命を絶ちました。
後述しますが、萩原さんは中学高校の長期にわたっていじめを受けています。
以来、精神疾患に苦しみ、入院や通院をくり返したようです。
せっかく歌集の出版が決まっていたのに、もったいないと考える人もいるでしょう。
しかしいじめの後遺症は深刻で、歌人として認められてもプレッシャーが重なり、精神への負担は限界に来ていたのかもしれません。
武蔵中学校でのいじめ
次に武蔵中学校でのいじめの詳細を見ていきます。
1997年に武蔵中学校へ入学した萩原さん。
武蔵中学校は、男子校の御三家に数えられる名門私立校でした。
萩原さんは同校の野球部に入部。
しかし顧問の教諭に怒鳴られた際のおびえる姿をからかわれたことで、いじめを受け始めます。
時には暴力さえあったいじめは、中高一貫校ということで、長期にわたって続けられました。
つらい青春を送っていた萩原さんは、近所の書店にイベントで来ていた歌人・俵万智さんに影響され、短歌を作り出します。
朝日新聞の歌壇欄に、自身の経験を基にしたいじめがテーマの短歌を多く投稿。
「屑籠に 入れられていし鞄があれば すぐにわかりき 僕のものだと」は代表作です。
19歳で、岡井隆さん主宰の未来短歌会などに所属し、積極的に歌を発表し続けます。
武蔵高校を卒業してもいじめの後遺症に苦しみますが、通院しつつ、早稲田大学の通信制で学びました。
卒業論文のテーマは前衛短歌を作ったことでも知られる、寺山修司だったそうです。
大学卒業後、短歌の創作をしながら、アルバイトや契約社員など非正規で働き続けました。
こうして短歌のテーマは、非正規労働者の切実な思いをつづったものへと変わっていくのです。
非正規短歌で知られる萩原さんですが、原点は武蔵中学校での壮絶ないじめ体験でした。
しかし苦しみに埋没することなく、思いのたけを見事に表現する才能があったのでしょう。
萩原慎一郎の滑走路、恋について
次に萩原さんの代表的歌集『滑走路』と、恋について見ていきます。
朝日歌壇賞、日本歌人クラブ賞など名だたる賞を受賞し、プロ歌人として活躍していた萩原さん。
2017年、歌集の出版が決定します。
短歌の世界では、著名な歌人であっても歌集は自費出版が一般的で、部数は最多で約500部だそうです。
しかし『滑走路』は、角川文化振興財団の支援を得て、初版1500部で出版されています。
それだけ注目を集め、短歌に関心のない人の心をもつかむ要素があったことがわかりますね。
しかし出版の際、既に萩原さんは他界。
出版は遺族が引き継ぎ、弟のギタリスト萩原健也さんが、広報を担いました。
『滑走路』は遺族の努力が実り、2017年12月25日、角川文化振興財団より発行されます。
翌日には、角川書店レーベルで無事発売されました。
多くの非正規雇用の人々や生きづらさを抱える人々の心を直接つかんだ萩原さんの歌。
2020年には映画化され、より多くの人に感動をもたらしているようです。
#萩原慎一郎 原作
映画『#滑走路』絶賛公開中✈️#水川あさみ #浅香航大 #寄川歌太https://t.co/t6OkyyZTsq
歌集『滑走路』 (単行本、角川文化振興財団)https://t.co/voSdA4602P
歌集『滑走路』(角川文庫、解説:又吉直樹)https://t.co/bF6BMiOBXU
小説『滑走路』(藤石波矢)https://t.co/cn490kZGfL pic.twitter.com/ppfSNjY6FK— 萩原健也 @ 映画『滑走路』上映中 (角川シネマ有楽町1月14日まで) (@kenyahagihara) December 1, 2020
この短歌集、とても素敵だ。
ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる
更新を続けろ、更新を ぼくはまだあきらめきれぬ夢があるのだ
いつの日もきみの本心見えなくてジェットコースターの浮き沈みあり
萩原慎一郎『滑走路』
映画化もされているそう。
あゝ、観たい。 pic.twitter.com/4viyxMJZvz
— ひつじ☃️歌人に憧れてます (@hitsujiteacher) January 6, 2021
また恋の歌とされる作品も残しています。
「作業室 にてふたりなり仕事とは 関係のない 話がしたい」からは、恋も楽しめない非正規のやりきれなさが伝わってきます。
具体的にどんな相手に恋していたか、また実際に恋をしていたかはわかりません。
しかし社会に出たことで、初めて恋心を抱ける相手にも出会えたのかもしれませんね。
萩原慎一郎と有吉弘行の関係
最後に萩原さんと芸人の有吉弘行さんの関係を見ていきます。
有吉さんはNHKのニュース番組「ニュースウオッチ9」で、『滑走路』の存在を知ったそうです。
以来、短歌に関心がわいて、自身の深夜ラジオ番組に短歌コーナーを作りました。
同番組に対して、版元の角川書店は『滑走路』を贈呈します。
しかし有吉さんは既に購入していたので、視聴者へプレゼントすることになりました。
有吉さんは歌集に感銘を受けた、一ファンだったといえますね。
壮絶な実体験を短歌に昇華させ、多くの人に生きる希望をもたらした歌人だったのでしょう。
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