社会問題から趣味の映画や落語まで、幅広いテーマの文章で知られるコラムニストの中野翠(なかのみどり)さん。
独り暮らし歴は40年以上とのことですが、充実した楽しい暮らしは2023年現在も続いているようです。
大好きな着物を利用した驚きのアイデアをはじめ、結婚についての持論、林真理子さんや橋本治さんとのエピソードをお送りします。
中野翠は2023年現在も充実した生活
1985年にスタートした『サンデー毎日』の連載コラムが35年を超えた中野翠さん。
林真理子さんの『週刊文春』の連載エッセイがギネス認定されたのは記憶に新しいですが、それに次ぐ長寿連載かもしれませんね。
これまで老後の楽しみ方をたびたび著作で紹介してきた中野さんですが、2023年現在も充実した楽しい暮らしを送っている模様。
忙しさは相変わらずで、時間に余裕はないけれど、落ち着いたらやりたいのは針仕事なのだそう。
端切れやレースやボタンがたくさんあるので、それらをどのように生かすかがテーマと話しています。
とはいえ、性格は大ざっぱだと自己分析する中野さん。
テキストにしたがって、きちんと仕上げるのは性に合わないようで、思いつくまま遊び気分でやるのが中野流。
ご本人は、これを「インチキ手芸」と呼んでいます。
2020年に刊行された『コラムニストになりたかった』は、1969年から2010年代までの自分史のような作品。
出版社勤務からフリーランスのコラムニストになるまでの経緯、出版界の裏話、三島事件など、当時の空気や世相が伝わってきます。
得意の手芸で着物を洋服に仕立て直し
着物のムック本で取り上げられたり、林真理子さんのエッセイに着物友だちとして登場したこともある中野翠さん。
高価すぎる着物は購入しない、古典はじつはモダン、新しい着物は帯を工夫してモダンガールのように着る、といったこだわりがあるようです。
中野さんらしいのは、着物を着物として着るのではなく、洋服に仕立て直してしまうところ。
古い襦袢なども得意の手芸でアロハシャツに変身させてしまうのだそう。
アロハなのに柄や色が和テイストというのは斬新でオシャレかもしれません。
中野さんいわく、肌触りがよくてサラサラしているので夏にはぴったりなのだとか。
シワになりにくいため旅行にも大活躍するかもしれませんね。
中野翠さんと着物といえば、『小津ごのみ』もとても興味深い1冊。
中野翠『小津ごのみ』(ちくま文庫)
小津監督は自分の趣味・好みを映画に最大限取り入れた。ファッション、インテリア、雑貨など表層的なものから、俳優・女優の顔かたち、仕草や口調や会話の間にまで。監督の好嫌の感情に注目した斬新な小津論。解説:与那原恵 2011年4月刊#ちくま1000「本」ノック541 pic.twitter.com/oiKAok2khA— 筑摩書房 (@chikumashobo) May 22, 2019
小津安二郎監督の美意識が詰めこまれた小津映画を女性視点で分析した画期的な論評です。
とはいえ難解な論ではなく、映画評論家が見落としがちなファッション、インテリア、俳優・女優の顔かたちや仕草など、細かいディテールに注目して考察するスタイル。
とりわけ着物や女優については目を光らせており、小津監督の趣味について中野さんらしい分析を展開しています。
小津映画を観て感じていた、言葉では表現しにくい微妙なことも、うまく言い当ててくれているという印象です。
本のタイトルも秀逸ですね。
中野翠が結婚しない理由
中野翠さんは独り暮らし歴40年以上と明かしており、「私自身はひとりもの」と著作でも述べているので、おそらく2023年現在も結婚はしていないと思われます。
結婚しない理由についても自著につづっていますね。
中野さんは、女性たちが結婚を望む背景には、年をとって女でなくなることへの恐れがあるのではないかと指摘。
でも結婚して子供をもてば、妻であり、母であるという説明がつくので年をとることが怖くなくなる、と述べています。
結婚すれば妻・母というアイデンティティーをゲットできるので、性愛的対象としての女でなくなっても傷つかないというわけですね。
恋愛のゴールが結婚ならまだしも、先に結婚を設定して、後から男性を当てはめるというのは好みでないようです。
林真理子と「アグネス論争」で共闘
80年代に勃発した「アグネス論争」では林真理子さんに賛同し、アグネス・チャンさんを批判したため、フェミニストたちのやり玉にあげられた中野翠さん。
「アグネス論争」とは、アグネス・チャンさんの「子連れ出勤」をめぐる大論争。
アグネスさんがテレビ局の楽屋に赤ちゃんを同伴して育児をしていることに対し、各界で活躍していた女性たちがさまざまな意見を闘わせた騒動です。
中野さんと林さんがアグネスさんを批判したのは、子供がいるという自身の都合を職場に持ち込んで周囲に気を遣わせたり、迷惑をかけたりしていることに鈍感という点でした。
一方、フェミニストの上野千鶴子さんはアグネスさんを擁護。
仕事をもつ母親の子育てが、ただではすまないことをアグネスさんは突きつけてくれたと述べて、これを「すべての働く母親の問題」として提起しました。
フェミニズムには興味がなかったのに、ひょんなことからフェミニズムの世界の女性たちと接触することになった、と中野さん。
結果として、中野さんと林さんは、鬼のようなツノを生やしたイラストまで雑誌に描かれてしまうことに。
林真理子さんとは長年親交を結んできたようですが、価値観は正反対なタイプとも発言しており、ある時期から林さんの名前は文章に登場しなくなりました。
そして嬉しかったのは、氷川きよしさんが3月発売の新曲「南風」を歌ってくれたことと、林真理子さんと久しぶりのご対面が出来たこと。
新曲のご披露には林さんも大感激。楽しいひと時になりました。 pic.twitter.com/gzwZPp9ZaM— 湯川れい子 (@yukawareiko) March 11, 2021
親交の深かった橋本治の死去
2019年1月29日、肺炎のため70歳でこの世を去った橋本治さん。
「とめてくれるな おっかさん」ではじまる有名なコピーは東京大学在学中のもの。
まだ駆け出しのフリーライターだった中野翠さんが初めて橋本さんに会ったのは、橋本さんが『桃尻娘』でデビューした直後。
大人になったいたずらっ子という印象で、初対面なのに懐かしい男子に会った感じがしたそうです。
再放送してくれぃ#橋本治 pic.twitter.com/AXhRndXYpC
— 百momo (@YAQMOMO) January 29, 2019
【ただいま発売中】3月23日号の連載「日本一の書評」は今年1月に亡くなられた #橋本治 氏の「#思いつきで世界は進む――『遠い地平、低い視点』で考えた50のこと」(ちくま新書)をエッセイスト・コラムニストの #中野翠 さんがレビュー。「橋本さんは私がモヤモヤと感じることを論理的に書いてくれる」 pic.twitter.com/ftz6L6QSqA
— 週刊現代 (@WeeklyGendai) March 13, 2019
のちに二人は『ふたりの平成』という対談集を出版することになりますが、その時に橋本さんも「中野さんは昔から知っている同級生みたいだった」と言っていたのだそう。
同じ団塊の世代で、同じ昭和の時代を同じ距離感ですごしたことからそう思えたのかもしれません。
長期の出版不況時代をものともせずに、コラムニストとして活躍を続ける中野翠さん。
これも人気コラムニストたるゆえんなのでしょう。
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